2016年9月12日

センターの特徴

両側同時人工股関節置換術

 手術には患者さんそれぞれに最適な時期があります。それは患者さんの年齢や全身状態、仕事や家庭の都合などによって異なりますが、2回に分けての手術を計画するよりも、1回で確実に手術が行える方が適している場合もあるため、両側同時人工股関節置換術の選択肢が必要と考えています。

X線写真 手術前後

 また、両側が悪い患者さんは脚長差(きゃくちょうさ)といって脚の長さが左右で違ってしまっています。これが原因となって近くの膝関節だとか骨盤の歪みがおこり、片側だけ手術してリハビリをする場合にうまくいかないこともあるのですが、両側同時なら脚長差の調整がよりうまくできます。

 変形性股関節症や大腿骨頭壊死症などで両側の股関節に問題があり、保存的な治療では痛みがなかなか消えず、日常生活に支障があり、患者さん本人が「今より痛みなく活動のレベルを上げたい」と希望する場合は、両側同時人工股関節置換術の対象となります。

 両側同時人工股関節置換術のメリットは、一度の入院で手術を終えることができます。時間的にも経済的にも負担は軽くなりますし、なによりも、悪いところを残さず治療するので痛みや日常生活の不自由が一気に解消されます。しかも、片側の場合も両側の場合もリハビリテーションの進行具合や制限にはほとんど差がありません。

 実際に当院では、人工股関節置換術を受ける患者さんのうち、約2~3割が両側人工股関節置換術を希望して、手術を受けられています。

痛みの少ない手術・リハビリテーションの提供

痛みの少ない手術患者さんは一大決心をして手術にのぞむわけですから、手術後のストレスは最小限に抑えたいと考えています。

 麻酔は全身麻酔で行いますが、術後数日間の痛み対策として、背中に管を入れて麻酔薬を注入する硬膜外麻酔を行います。手術前に抗血小板薬を内服している人や、ステロイド剤などを服用して感染の危険性が高くなっている人は、手術の前後で薬を中止しますが、硬膜外麻酔は行わず、点滴注射による痛みのコントロールを行います。いずれも、痛みがあるときに、患者さん自身が適切な量の薬を注入できる装置を使用します。

手術後の動作 また、ベッドで安静にしていることで生じる腰や背中の痛みは、起き上がらないと解消されないため、安静期間はなるべく設けないほうが良いと考えています。手術当日からベッドを起こすことはもちろん、体を横にして寝ることもできますし、腰が痛い人はベッドの端に腰かけたり、ふらつきがなければ歩行器で立ち上がったりということを積極的にサポートしています。

バイオクリーンルーム・感染対策

 バイオクリーンルーム当院の手術室は4つあるうち、2つは清浄度の高いバイオクリーンルームを設けており、人工関節の手術は細菌感染に十分注意する必要性があるため、バイオクリーンルームにて行います。バイオクリーンルームでは、特殊な空調により清浄な空気を循環させ、ほとんど塵のない環境を作り出しています。また、一般的な手術室の清浄度はNASA規格でクラス10,000であるのに対し、バイオクリーンルームの清浄度はクラス100と、数値からもさらに清浄度の高い手術室であることが判断できます。(クラス100は、1立方フィートあたり0.5μmの粒子が最大100個であることを示しています。)

 さらに、人工関節の手術の際には、手術スタッフは宇宙服のような手術着や手術用ヘルメットを着用し、人から発生する塵を防ぎ、患者さんの分泌物や飛沫による感染から守ることに努めています。

手術後、動作制限のない手術

 制限のないリハビリテーション当院で手術した患者さんには、特に制限する動作は無く、手術前にできていた動作については、基本的には術後もおこなって良いとお話しています。そのためには、手術中に人工股関節がどこまで動かせ、また脱臼はしないのかをしっかりと何度も確認します。この確認で「よし、これで大丈夫」という状態になったら、手術のために切開した関節包と筋肉をきっちりと修復(縫い合わせた)します。縫合後はさらに安定性が増すので、手術後に脱臼を気にせず動かせることになります。その後、自信をもって日常生活に戻れるよう、手術後のリハビリテーションでじっくりと時間をかけてひとつひとつの動作を確認していきます。

患者さんお一人お一人のニーズに応える専門的なリハビリテーションの提供

 患者さんお一人お一人のニーズに応える専門的なリハビリテーションの提供
 手術をして関節自体が動くようになっても、その関節を動かす筋肉がきちんと働かなければ正しい動きをすることはできません。このため、手術後のリハビリテーションがとても重要です。

 退院後は家事や仕事が忙しくなり、リハビリテーションに割く時間が減ってしまうことも多く、リハビリテーションが不十分なままで退院してしまうと、ぎこちない歩き方が残ってしまうこともあります。入院中の目標である、「痛みがなくなり、歩き方が改善されて、日常の生活動作に自信を持って過ごせるようになること」、またその先の患者さんお一人お一人の目標の達成のために、リハビリテーションの質はもちろん、患者さんがストレスなく、意欲的にリハビリテーションに取り組める環境を提供してこそ、手術の最大の効果が得られると考えています。そのために医師、看護師や理学療法士が協力して患者さんの心と体の両面からサポートする体制を整えています。